この記事は下記の方にお勧めです。
・長周期地震動とは何かを知りたい方
・長周期地震動により発生する被害を知りたい方
・長周期地震動の対策を知りたい方
・南海トラフ巨大地震で長周期地震動の発生が推計されている場所を知りたい方
はじめに
巨大地震が発生すると震源から遠く離れた場所の高層ビルで被害が発生することがあります。例えば、2011年の東日本大震災で震源から約700km離れた大阪南港のコスモタワーでエレベーターが壁に衝突して停止するなどの被害が発生しました。大阪市の最大震度が3であったにもかかわらず、コスモタワーでは最大2.7メートルの揺れが10分間続きました。
これが長周期地震動と呼ばれるものです。この記事では長周期地震動についてまとめます。
長周期地震動
長周期地震動とは
長周期地震動は大きな地震により発生する周期(1往復の揺れにかかる時間)の長い大きな揺れのことです。高層ビルで発生し、高層階ほど揺れが大きくなり、被害も大きくなります。同じビル内でも階により被害の大きさが異なります。
揺れの周期と建物への被害
地震には様々な周期の揺れが含まれています。ガタガタと揺れるような周期の短い地震動は1戸建て住宅や低層の建物がよく揺れ、被害を受けます。この揺れは数秒から数十秒で収まることがほとんどです。また、減衰しやすいため長い距離を伝播できず、震源地から離れるほど揺れは小さくなります。
一方、周期の長い揺れは減衰しにくいため震源地から遠く離れた場所にも強さを保ったまま到達します。この地震動は周期の短い地震動とは逆に1戸建て住宅や低層の建物への影響は少ないのですが、高層ビルに影響を与え、大きな揺れが長時間続く地震動となります。特に地震動の周期と建物の固有周期(建物にはそれぞれ揺れやすい周期があります)が一致すると、非常に大きな揺れになります。これを「共振」と言います。
つまり、低層の建物と高層の建物では共振する周期が異なっており、下図のように低層の建物では短い周期の揺れに共振して大きな被害が発生し、高層の建物では長い周期の揺れに共振して大きな被害が発生します。
長周期地震動の特徴
長周期地震動による被害
高層ビルでエレベーターの停止による閉じ込め事故、内装材や防火扉が破損するなどの被害が発生した事例があります。また、建物の構造体に損傷がなくても、エレベーターの停止による閉じ込め、停電、断水などのインフラへの影響や、階段での上り下りが必要になるなどの生活への影響が出ます。
また、室内では背の高い家具が転倒することは言うまでもなく、背の低い家具も揺れにより転倒したり移動したりすることがあります。特に、椅子などのキャスター付きの什器は猛烈な勢いで移動し衝突することにより怪我をしたり、壁や家具を破壊することもあります。さらに、移動した家具により出入り口が塞がれて脱出経路が失われることもあります。
高層ビルにおいても家具の固定による転倒防止や落下防止、キャスター付きの什器についてはキャスターロックをするなどの対策が不可欠と言えるでしょう。
長周期地震動の階級
通常の地震では震度1から7までの震度階級があることは下記の記事で紹介しました。
通常の地震による震動と長周期地震動では揺れのメカニズムが異なることから、気象庁では下記のように4つの階級に区分した「長周期地震動階級」という指標を導入しています。なお、気象庁では概ね14、15階建以上の高層ビルを対象としています。
長周期地震動階級 | 人の体感・行動 | 室内の状況 | 備考 | |
---|---|---|---|---|
長周期地震動階級1 (やや大きな揺れ) | 室内にいたほとんどの 人が揺れを感じる。 驚く人もいる。 | ブラインドなど吊り下げ ものが大きく揺れる。 | - | |
長周期地震動階級2 (大きな揺れ) | 室内で大きな揺れを感 じ、物につかまりたい と感じる。物につかま らないと歩くことが難 しいなど、行動に支障 を感じる。 | キャスター付き什器がわ ずかに動く。棚にある食 器類、書棚の本が落ちる ことがある。 | - | |
長周期地震動階級3 (非常に大きな揺れ) | 立っていることが困難 になる。 | キャスター付き什器が大 きく動く。固定していな い家具が移動することが あり、不安定なものは倒 れることがある。 | 間仕切壁など にひび割れ・ 亀裂が入るこ とがある。 | |
長周期地震動階級4 (極めて大きな揺れ) | 立っていることができ ず、はわないと動くこ とができない。揺れに ほんろうされる。 | キャスター付き什器が大 きく動き、転倒するもの がある。固定していない 家具の大半が移動し、倒 れるものもある。 | 間仕切壁など にひび割れ・ 亀裂が多くな る。 |
長周期地震動の緊急地震速報
気象庁では従来から最大震度5弱以上を予想した地震について緊急地震速報を発表していますが、2023年2月から長周期地震動階級3以上を予想した地域にも緊急地震速報を発表しています。
緊急地震速報の対象地域で高層階にいる時には安全な場所で身を守れるような行動をしましょう。例えば、マンションの室内では頭を保護し、固定された丈夫な机の下など安全な場所に避難する、商業ビルなどでは吊り下がっている照明などの下を避けて安全な場所で頭を保護し、揺れに備えて安全な姿勢をとる、エレベーターでは最寄りの階で停止させて、すぐに降りることを挙げられます。また、揺れが収まった後の避難でエレベーターを使用することは避けましょう。
主な長周期地震動の事例
事例1 平成15年(2003年) 十勝沖地震(M8.0、最大震度6弱)
十勝沖地震では震源から約250km離れた苫小牧市内で、長周期地震動により揺動した石油タンクの浮き屋根が沈没し、地震から2日後に静電気により火災が発生しました。
事例2 平成16年(2004年) 新潟県中越地震(M6.8、最大震度7)
長周期地震動により震源から約200km離れた東京都内の高層ビルでエレベーターのワイヤーが損傷する被害が発生しました。現地での震度は3でした。
事例3 平成23年(2011年) 東日本大震災(M9.0、最大震度7)
長周期地震動により、東京都内の高層ビルで大きな揺れを観測しました。また、震源から約700km離れた大阪市の高層ビルでエレベーター停止による閉じ込め事故、内装材や防火扉が破損するなどの被害が発生しました。現地での最大震度は3でした。
南海トラフ巨大地震による長周期地震動の予測
南海トラフでマグニチュード9程度の地震が発生した場合、下図のように東京、名古屋、大阪の三大都市圏で長周期地震動が発生すると推計されています。
千葉県、愛知県、三重県、滋賀県、奈良県、大阪府、兵庫県の一部では継続時間300秒以上と推計されており、さらには、神戸市及び大阪市の沿岸部の一部では継続時間400秒以上と推計されています。
そして、三大都市圏の超高層建築物の最上階の揺れは、沿岸部を中心とする地域で100~200cm程度、固有周期5~6秒(高さ200~300m程度)の建物では中部圏及び近畿圏の一部で最大300cm以上と推計されています。
まとめ
この記事をまとめます。
この記事は下記を参考にして作成しました。
気象庁ホームページ
政府広報オンライン
内閣府 防災情報のページ
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